2021年12月 井之川岳(大島郡徳之島町・天城町)

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今年の7月に世界自然遺産に登録された奄美大島と徳之島。

前回はその世界遺産エリアの奄美大島の奄美岳こと湯湾岳をご紹介した。

今回は世界遺産エリアでもあり、徳之島の最高峰でもある井之川岳に注目してみたい。

島のほぼ中央部に位置し、徳之島町と天城町にまたがる井之川岳は標高645メートル。北西には標高438メートルの美名田山、南西には標高382メートルの剥岳や標高417メートルの犬田布岳が井之川岳とともに島の中央部に連なる。

北部には島で二番目の標高の533メートルの天城岳があり、徳之島はそれらの周辺に豊かな常緑広葉樹林が広がっている。それだけに森林面積は島の約45%を占めており、動植物はもちろん、山は人間の生活にも欠かすことのできない水源としての役割も担っている。

井之川岳は島では「イノウデ」とも呼ばれ、また山麓の母間集落では「ブマウデガナシ」と称している。山の北東に突き出た巨石に対して、母間集落では元日の早朝に新米を供えて五穀豊穣を祈願する習慣があったという。

井之川の語源には、「稲」が関連しているとされており、南東から山を望むと稲穂が南を根にして横倒して寝ているように見えるとされている。それだけに「イノウデ」は「イネィフウデ(稲穂岳)」が転訛したのではとも推測されている。

信仰の山だけに開発されずに大切にされてきたことから、井之川岳周辺の森林は林齢の高い常緑広葉樹が広がっている。そこには貴重なオキナワウラジロガシの原生林も見られ、アマミノクロウサギやオビトカゲモドキ、イボイモリなども生息している。また1977年に徳之島において生息が確認されたトクノシマトゲネズミは、奄美大島に生息するアマミトゲネズミに比べると体が大きいことが特徴とされている。

島の海岸部に点在する集落から眺めても美しい井之川岳は、貴重な自然環境を育みながら島の安寧も安らかに見守るような存在である。